国連UNDPソマリアによる女性権利向上のためのNVCプロジェクト
UNDPソマリア 根本的な変化による紛争解決センター – バイドアの事例-
今回は、国連UNDPソマリアによるNVCプロジェクトの事例の概要を、日本語訳にしてご紹介します。
ソマリアの伝統には、女性に差別的な文化が根強いため、UNDPは女性の権利アクセス向上のために、NVCモデルを活用したプロジェクトを、バイドアの紛争解決センターで始めました。これは、女性の真のニーズを共感的に聞き、女性の参加者をエンパワーすることでコミュニティに変化を起こすことを目的としたものです。
最初の研修は、女性リーダー、伝統的なリーダー、宗教リーダーを対象に行われました。研修は、共感的な傾聴、伝統的観念の変容、参加者のニーズの把握を目的で行われました。
その結果、研修効果が3つのレベルで見られました。
- 参加者の内的変容
- 紛争解決センターの役割の変化
- 社会的変化
具体的には
- 参加者の内的変容
・女性に対する無意識的なバイアスの認知
・感情に対応する能力の向上。特に、ソマリアの伝統が必ずしもイスラム教のコーランに沿ったものではないことを自覚。怒りは満たされていないニーズによるもので、怒りを破壊的な使い方からより建設的に変容することを習得。
・内的変容のプロセスは、参加者と家族(特に子供と配偶者)がよりつながりの深いコミュニケーションを取れるような関係をもたらした。
・女性達が、自分の感情とニーズを認識するようにエンパワーし、ネガティブな感情も満たされていないニーズを教えてくれるものとして迎え入れ、ニーズを見つけることを促した。さらに、どのようなストラテジー(方法)がニーズを満たすか。これ以上満たされないニーズが続いて争いが起きないように、自分の気持ちを他者に伝えることができるようになり、コミュニチィ活動ができるように女性は自信をつけるようになった。
2. 紛争解決センター(ADR)の役割の変化
・ADRは、従来は問題解決に即飛びついていたが、研修後は関係者の感情とニーズをじっくりと聞くようになった。さらに、紛争解決に女性リーダーが積極的に関与するようになった。
・NVCモデルを通して、ADRメンバーは、より深く持続的なレベルで紛争を解決することができるようになった。例えば、家庭内暴力でADRを度々おとづれていた夫婦が、来なくなった。NVCモデルによって、人々はより共感的に聴くことができるようになり、つながりを深め、時には癒しをもたらすようになった。以前は、形式的な紛争解決を図っていたADRは、今は関係者の心地よい紛争解決を大切にするようになった。
・新しい技術を身につけ変容を遂げたADRは、自分たちのコミュニティ、国内避難民キャンプや離れた村々のリーダー達からの信頼が強くなり、今やアドバイスを仰がれるようになった。2019年12月から、以前よりもADRに持ち込まれるケースが倍増した。
3. 社会的変容
女性の居場所や文化的社会的ルールの変容の転換点になった。深い個人的変容を遂げ、強い意思を持つ女性グループの参加者達は、独自にコミュニティや国内避難民キャンプにNVC研修の普及活動を開始している。
引用元:UNDP Building Alternative Dispute Resolution Centres Based on Transformative Change: The Example of Baidoa, 2021
投稿者プロフィール
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アフリカ・途上国支援アドバイザー、NVCトレーナー、メディエーター、コーチ
米フレッチャー法律外交大学院卒(国際関係)。世界60カ国を渡り歩き、アフリカを中心とした30カ国において人道・開発支援に20年従事。青年海外協力隊に参画後、国連職員として難民に対する食糧支援の夢を実現するものの、移動先で開発支援の現実とのギャップに退職。世界放浪の後、再び国際開発コンサルタントとしてアフリカの現場に戻り、紛争影響国の復興支援、難民支援戦略策定、パレスチナ・ガザ調査に従事。東北大震災では緊急医療支援調整員として参加。その後、アフリカ支援を行う財団法人の経営陣として転職。合併直後の組織改革を率いるものの、組織内対立に頭を悩ます。退職後は、職場におけるコンフリクトマネジメントに対応するため、NVCを集中的に学び、現在はNVC認定候補生としてNVCを教える他、コーチングやメディエーション(調停)を行なっている。グローバルな視点から途上国支援・SDGsアドバイザリーを提供し、「世界平和は一人一人の心の平和から始まる」ことを人々に伝えている。
NVCコミュニケーション研修・オンラインセミナーなど
出張にて法人、大学、団体などに向けて講師いたします。
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